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マルチ○○学習まとめ

機械学習の分野では、マルチ○○学習という名付けられた枠組み・手法が色々提案されています。僕は、接頭辞が共通だと、すぐごっちゃになって何が何だか分からなくなってしまうので、ちょっと整理したいと思っていました。ということで、今回は「マルチカーネル」、「マルチビュー」、「マルチタスク」、「マルチラベル」、「マルチインスタンス」をメモ書き程度にまとめました。

マルチカーネル学習

複数の特徴ベクトル表現、または、類似の尺度が考えられるタスクに対し、複数のカーネル関数を組み合わせたカーネル学習を考えましょうという手法の枠組みです。例えば、画像データの場合、特徴ベクトルとしてbag-of-keypointsを構築したり、色情報を利用したりと、様々な類似尺度を考えることができます。そこで、それぞれの類似尺度に対応するカーネル関数を構築して組み合わせれば、ハッピーになれるだろうという考え方です。
多くの場合、次のようにカーネル関数の線形和を考えます。
k({\bf x} ,{\bf y}) = \sum_{i=1}^{N} \beta_i k_i({\bf x} ,{\bf y})Nカーネル関数の数)
このカーネル関数を学習の目的関数に組み込んで、最適な\betaを求めるのが、メジャーな手法といえるでしょう。必要なカーネル関数の重み(\beta)だけ大きくなるので、どれが学習に寄与する類似尺度かもわかるというメリットもあります。
有名なのは、大規模データをマルチカーネル+SVM等で学習する手法を提案したLarge Scale Multiple Kernel Learningという論文でしょうか。また、Dimensionality Reduction for Data in Multiple Feature Representationsでは、マルチカーネルを用いた次元削減手法を提案しています。他にも「multiple kernel learning」とかで検索すれば様々な論文が引っかかり、Multiple Kernel Learning Algorithmsというサーベイ論文なども見つかるので、勉強はしやすいと思います。

マルチビュー学習

1つのサンプルが様々な特徴量(ビュー)の組み合わせで構成されるデータセットを学習する問題の枠組み。例えば、動画データは画像シーケンスと音声信号という2つのビュー組み合わせとみなせますし、画像が含まれるウェブサイトなんかはテキストデータ+画像+リンク情報というように考えることができます。このようなデータセットに対し、効果的な学習手法を考えるのがマルチビュー学習の枠組みです。
手法としては、Combining labeled and unlabeled data with co-trainingで提案された共訓練(co-training)と呼ばれる手法が代表的でしょうか。これは、元々半教師あり学習の一手法を提案した論文で、マルチビューとみなせるデータセットならば(ただし、ビュー間はラベル情報のもと条件付き独立である必要あり)、各ビュー別々に分類器を学習し、ラベルなしデータをそれに判別させた結果を用いて更に分類器を学習するという反復手法がうまく行くことが示されています。
一方で、各々のビューが潜在的な部分空間を共有しているという仮定の下、その部分空間を見つけて写像してあげようというアプローチもあります。その中でも、正準相関分析(CCA)を利用した手法がよく知られています。他にも、フィッシャー判別分析を利用した手法、Neighborhood Preserving Projectionsを利用した手法などがあります。
また、上述のマルチカーネル学習の手法を適用した論文も多数あります。というか、マルチビュー学習の問題に、類似尺度が複数考えられる場合に効果的なマルチカーネル学習の手法を適用するのは自然なアプローチと言えます。もう少し言うと、マルチカーネルを適用すること自体、一種のマルチビュー学習とみなせるんじゃないでしょうか*1。そのため、マルチカーネル学習を適用して解いた問題を他のマルチビュー学習手法で解けば、もっと良くなるってこともあるかも・・・
なお、この項目を書くにあたって、A Survey on Multi-view Learningというサーベイ論文を参考にしました。

マルチタスク学習

複数の関連するタスク同士で情報を共有することにより、予測精度を向上させようという考え方の枠組み。特徴ベクトルやラベルの定義域はタスク間で共通の場合が多いです。考え方は転移学習と類似しているので、その辺りの論文も参考になります。両者の違いは、マルチタスク学習の方は、タスク間で協調し合うことで全てのタスクの精度を向上させようという目的に対し、転移学習はある目標のタスクがあって、その目標タスクの精度向上が目的である点で違います。
マルチタスク学習の例は、書き手が異なる学習データを用いた手書き文字認識です。学習データに本人が書いたデータが少ない場合、他人の書いた文字データを利用することで精度を向上させようという試みは、マルチタスク学習とみなせます(タスク1はAさんの手書き文字認識器を学習、タスク2はBさんの手書き文字認識器を学習・・・)。それ以外にも、テキストデータを分類する問題で分野の違うテキストデータを用いたり、シーンの異なる画像データで物体検出を行ったりといった場面でマルチタスク学習が適用できます。
手法としては、異なるタスクのサンプルを学習する際、そのサンプルがどれだけ適合するかという重みを付けるアプローチや、正則化項などを用いてタスク間でパラメータが類似するように学習するアプローチなどがあります。例えば、前者には、タスク間の関係が共変量シフトという状況下であると仮定し確率密度比を重みづけした手法が、Covariate Shift Adaptation by Importance Weighted Cross Validation等の論文で提案されています*2。後者も行列ノルムの正則化を利用し、各タスクのパラメータがスパース、かつ、0になる要素がタスク間で共通(jointly sparse)になるように学習する手法Robust visual tracking via multi-task sparse learning等々様々な手法があります。また、上述のマルチビュー学習とマルチタスク学習の問題設定を組み合わせたA Graph-based Framework for Multi-Task Multi-View Learningなんてものもあります。
サーベイ論文としては、転移学習のサーベイですがA Survey on Transfer Learningが有名でしょう。検索すれば日本語の資料なんかもたくさん出てきます。

マルチラベル学習

その名の通り、1つのサンプルに複数のラベルが割り当てれる分類問題の枠組み。例えば、小説のカテゴリ分けを考えた場合、「SF+ミステリー」、「ホラー+恋愛+ファンタジー」等のように、1つのジャンルに定められないことが多々あります。このような問題をマルチラベル学習では考えており、学習用サンプルに複数ラベル(カテゴリ)が割り当てられ、テスト用データの分類結果も複数ラベルが出力されるような手法が様々提案されています。
手法としては、大まかに分けると既存の学習手法をマルチラベルに拡張するアプローチと、マルチラベル問題をシングルラベルの問題に変換するアプローチの2つがあります。前者はSVMの拡張やAdaBoostの拡張、k近傍法の拡張など様々なものが提案されています。
後者の方もたくさんのアルゴリズムが提案されていています。例を挙げると、そのラベルが付いているか否かの2値分類問題に変換する手法(ジャンルがSFか否か、ミステリーか否かといった分類器をそれぞれ構築)、存在するラベルの組み合わせを1つのラベルとしてみなす手法(と言う1つのラベル、という1つのラベル、<ホラー+恋愛+ファンタジー>という1つのラベル)、複数ラベルが付いているサンプルは特徴ベクトル同一だがラベルが異なる別のサンプルとして学習する手法、などなど
マルチラベル学習の手法はほとんど知らなかったので、朱鷺の杜Wikiのマルチラベルの項目やここで紹介されていたチュートリアル論文Mining Multi-label Dataが非常に参考になりました。

マルチインスタンス学習

他の枠組みより多少問題設定がややこしいです。まず、用語として「bag」と呼ばれるものがあります。これは、複数のサンプル*3がひと塊りになったものです。マルチインスタンス学習では、学習データとして複数のbagと、それぞれのbagに正例か負例かというラベル情報が与えられます。ここで言う正例とは、bag内に1つでも正例に属するインスタンスがあること(負例インスタンスがいくつあってもよい)、対して負例はbag内全てのインスタンスが負例に属することを言います。bag内個々のインスタンスのラベルは分かりません。このような、学習データを与えられた上で、正例か負例かわからないbagを分類するというのがマルチインスタンス学習問題の枠組みです。
このような問題設定は、画像の分類問題に利用できます。例として、与えられた1枚の画像がビーチの画像か否かを判定するタスクを考えます。教師あり学習なので、学習用データとしてビーチの画像であると分かっている画像と、ビーチの画像ではないと分かっている画像が複数枚事前に与えられているとします。このような場合に、画像1枚の画像から領域ごとにわけて特徴ベクトルを抽出すると、1枚の画像=bag、抽出した各特徴ベクトル=インスタンスとみなせます。学習用データには画像(bag)に対して正例か負例かというラベル情報が割り当てられているので、このような問題設定は、まさにマルチインスタンス学習と言えます。それ以外にも、ある分子が薬として適切か否かを判定するタスク、文書データの分類などにも使われるようです。
アプローチとしては、与えられたbagセットからインスタンス単位での分類器を構築する、新規のbagに対しては、各インスタンスを分類器で判別してその結果を統合してbagがどちらに属するか判断するというアプローチ、bagレベルで学習するアプローチ(bag同士の距離を定めたりカーネル法を利用したり)、bagから1つの特徴ベクトルを構築(bag-of-keypointsなど)して学習するアプローチなどがあります。
まだちゃんと読んでいませんが、Multiple instance classification: Review, taxonomy and comparative studyというレビュー論文を参考にこの項目を書きました。

*1:例えば、カーネルの超パラメータを変えるだけでも、ある意味でビューを変えているというのが僕の考えです

*2:ここにあげた論文自体は、マルチタスク学習や転移学習を想定しているわけではありませんが、それらの一種とみなせると思います

*3:マルチインスタンス学習の枠組みでは「インスタンス」と呼びます。